「しっくりこない」あなたへ
社会の“正解”にモヤモヤしてる人、ちょっと立ち止まってみませんか?
朝井リョウ『生殖記』は、家電メーカー勤務の尚成(なおなり)という“オス個体”の人生を、まさかの語り手=生殖器目線で描く異色の小説。
え、語り手って何?と思った方、正解です。
読んでるうちに「なんでこんなに自分のことみたいなんだ…」と笑いながら刺さる不思議な読書体験が待ってます。
LGBTQ、共同体、幸福度、成長圧力…そんな言葉にピンとくる人には特におすすめ。
でも、肩肘張らずに読めるのが朝井作品のいいところ。
語り口は軽妙で、ツッコミも絶妙。読後は「自分の“しっくり”って何だろう?」と考えたくなるはず。
ストーリー
尚成は家電メーカーの総務部で働く33歳。独身寮に住み、同僚と体組成計を買いに新宿の量販店へ。
目的は「寿命を効率よく消費するため」。この時点ですでにただ者じゃない。
語り手は、なんと尚成の“生殖器”。
彼の行動や思考を冷静かつ辛辣に観察しながら、現代社会の「拡大・発展・成長」への執着を皮肉る。尚成は、共同体に手を添えるだけで力を込めない“個体”。
出世欲もないし、恋愛にも積極的じゃない。
週末はスイーツ作り→カロリー消費のルーティン。
そんな彼の周囲には、しっくりこない社会に適応しようとする同僚や友人たちがいる。
彼らとの会話や関係性の中で、尚成は「自分の幸福度」について少しずつ考え始める。
印象的なのは、ある問いかけに対して尚成が「手を添えるだけでいたい」と答える場面。
社会の“正解”に乗っかるのではなく、自分のペースで生きる選択をする彼の姿に、語り手も少しだけ感情を見せる。
物語は大きな事件もなく淡々と進むけれど、その静けさの中に、現代を生きる私たちの“違和感”がぎゅっと詰まっている。
まとめ:「しっくりこない」って、悪いこと?
この作品、語り手が生殖器ってだけで笑えるのに、読んでるうちに「これ、自分の話かも…」って思えてくるから不思議。
尚成の“手を添えるだけ”な生き方は、社会の圧に疲れた人にとって、ちょっとした救いになるかもしれません。
「成長しなきゃ」「役に立たなきゃ」って焦る日々に、そっと「それって本当に必要?」と問いかけてくれる一冊。
読後は、スイーツでも作ってカロリー消費しながら、自分の“しっくり”を探してみるのもアリかも。
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